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映画とか旅とか大好きなQueen(バンド)の備忘録、時々ひとりごと

ダラス・バイヤーズクラブ

不治の病モノで、泣く。


そんな安易な方程式にあてはめてなるものか、という製作者側の意図が垣間見れる、最後まできっちりブレずに撮った作品です。


ダラス・バイヤーズクラブ
ダラス・バイヤーズクラブ [Blu-ray]

あらすじ: 1985年、電気工でロデオカウボーイのロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)は、HIV陽性と診断され余命が30日だと言い渡される。アメリカには認可治療薬が少ないことを知った彼は代替薬を探すためメキシコへ向かい、本国への密輸を試みる。偶然出会った性同一性障害エイズを患うレイヨンジャレッド・レトー)と一緒に、国内未承認の薬を販売する「ダラス・バイヤーズクラブ」を設立するが……。
(Yahoo映画より引用)


ワタシ自身、ヒロイックな人間とその感動的な結末を描くお話自体は決して嫌いじゃないし、むしろそれを期待して映画館に足を運ぶタイプ。
ココロがササクレダッテいる時(ま、簡単にいえば仕事やなんかでストレスが溜まりまくっている状況)は、あえて「泣きに行く」為に映画を選んでいることだってあるし。
今回、いい意味で、そんな「やさぐれた」気分をこの映画が「ざらりと」フラットに均してくれました。
人間なんて、結局「自分の為」に生きている。
だけど、それが気がつけばなんらかの形で「他人の為」になっていて、そして最後には「自分が生きた証」になっている…。
自分に正直に生きるなんて大人になったらほぼ九分九厘無理。
しがらみに縛られ、建前を使い分け、いろんなことに気を配り、それでももつれたり、小さなもめごとや葛藤を抱えつつ、それを上手く見ないふりしていなきゃ、
日々の生活なんてできやしない。
だけど、もし。たった1厘の「自分へのわがまま」に対して共感してくれる人がいたとしたら。それが、結果的に共感してくれた人たちとのハッピーをわかちあえることになったら。自分の中の「見ないふり」をやめて、声に出したっていいんじゃないか。


そう。小さなさざ波が、BIG WAVEに変わる時。


ヒーロー、ですよね。それって。


「承認願望」とは自分の存在・あり方を認められたいという欲求であり、人間なら大なり小なり形は違えども、誰しもが持っている欲望だと思うけれど、この映画の主人公ロンがそれを具現化していく過程をこの映画はあくまでも淡々と描き切っています。ロン自身が、高尚な理想だの、人類愛(この映画のテーマだとさながら拝金主義の製薬会社&コンサバな医療業界 VS HIV患者との戦い、でしょうね)を声高に語らない処が、いい。
現に、ロン自身自分がHIV患者でありながら、同じ患者であるレイヨンを「おれはゲイじゃねえ」といって差別する。汚いあの手この手を使い、自分に効く薬を手に入れようとするその露骨なまでの生に対する貪欲さたるや、主人公に「かわいそう」的なお涙ちょうだい感情移入を許さない男として描かれる。で、しかも症状が安定したと思ったら、結局は薬の横流しでお金儲け、だし。薬を買いに来た女性患者とはしっかりイタシテしまうし(笑)
だけど、そんな人間臭いロンが、レイヨンをひそかに受け入れ(本人の最後のプライドは「俺はヘテロとしての感染だ」という処なので、表だって認めてはいないのがなかなかチャーミングな描き方)、非合法でも本当に効く薬を患者たちに提供し、ひいては製薬会社・国の許認可をも覆す結果となる。
でもロンが望んでいた「承認願望」は、そんな大それたことではなかったんだと、ラストシーンで気づかされる。そこもまた、いい。


男って、プライドの塊で生きてる生物なんだって、わかります(笑)


だから逆に、レイヨンの生き方がせつない。
偏見、献身、犠牲。
そんなものを全て、濃い化粧の下にまとったまま、死んでいく。
当時のHIV患者の負の側面を、レイヨンという人物一人が全部背負っているような描き方も秀逸です。


ココロがざらついたときには、逆にそれをキリリと逆なでしてくれるような「ひっかかるお話」を観た方がいい時も、ある。
そんなことを発見できた映画です。